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  • 執筆者の写真Kensuke Suga

ふくラガー

 先日の停電事件(前回参照)から復活して、タンクの中のビールだったものやビールになるはずだったものたちを廃棄してから、5つある500Lタンクをフル活用して大急ぎでビールを仕込みました。

 何を血迷ったのか、在庫もなく夏を迎えるというのにラガーを2種類仕込んでしまいました。ラガー系のビールはエール系のビールの倍の時間を発酵・熟成に要するのです。うちの発酵タンクでいえば、2か月あればエール系は1000L作れるのに対してラガー系は500Lしか作れません。多くのマイクロブルワリーがラガーを作らないのはこういった事情もあるのかもしれません。

 前置きが長くなりました。この2つのラガーのうちひとつは定番商品であり一番人気のツカレナオースピルスナー。これは仕込まねばなりません。

 そしてもうひとつは流れを変えるべくどうしても作りたかったラガー。ふくラガーです。貴重な福良のお米を使用したアメリカンラガーです。

 このお米を提供してくれたのが、4月に出店したイベント「うみぞら映画祭2024」でお客さんとして来てくれて知り合った福良のお米農家さんでした。とても美味しいと評判のお米です。私も福良に住んでおりますが、田んぼがあるなんて露知らず…福良でお米を作っている農家は2軒だけだそうです。

↓福良の田んぼ




 停電でビールがダメになったときにふとそのお米農家さんを思い出し、そのお米を分けていただいてアメリカンラガーを作れないかと思いました。福良のお米、「福」と「良」のお米、Good LuckなRice、なんと縁起がいいのでしょうか。すぐに連絡を取って田んぼを見学させていただくことに。

 南あわじは言わずと知れた玉ねぎの名産地です。玉ねぎの収穫が終わると畑の消毒を兼ねて水を張ります。その流れで田植えをして、玉ねぎとお米の二毛作をされる方が多いのです。そういった意味ではお米の一大産地なのですが、その大半の方は「お米は美味くないけどね」と自虐的です。このあたりの土は砂地が多く、お米には向かないのです。十分美味しいんですけどね!

 その中でも今回お米を提供してくれるお米農家さんは福良の山の際で生産していて土がしっかり粘土質でした。私も茨城の実家では家の前の田んぼでお米を育てていて、義実家も米どころ篠山で、いずれも粘土質の田んぼで美味しいお米に恵まれてきました。粘土質の田んぼへの信頼は厚いのです。すぐにお米を使わせてもらうことにしてレシピを考えました。

 下積み時代を含めてもビールにお米を使ったことがなかったのですが、お米を使用している美味しいビールは飲んだことあるし、お米の使い方は聞きかじっていました。麦芽を糖化するときよりも高温で先にお米をお粥にしなければならないのでシンプルに面倒くさくて避けてきました。お米農家であり醸造家でもある神戸のムーンブルワリーさんに色々と助言をいただきながらなんとか仕込んでいきました。お米の混ざった麦汁を味見してみるとこれが衝撃的な美味しさで!お米を使うとこんなに旨味を甘みが出るのか、福良のお米だからなのか。もっと早くお米の可能性に気付くべきでした。

 とにかくそんな麦汁(米汁)を発酵させて作ったビールです。


 ラベルデザインも定番品とは一味違って、稲穂カラーの陸に深い青の福良湾をモチーフにしています。福良から美味しいビールとGood Luckを全国へ!お互いに悪い流れを変えていきましょう!



 それと実は「ふく」にはもう一つ込められた意味があります。かつて茨城での独立プランが頓挫して困っていたときに南あわじでの開業を提案してくれたバイト先が篠山のサ高住「ふく」なのです。「ふく」に感謝を込めて。きっとまたいい流れをもたらしてくれることでしょう。

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